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AI×開発生産性を取り巻く予算戦略と投資対効果(石垣雅人 / DMM)

作成日: 2026-07-24 出典 / きっかけ: 石垣雅人(合同会社DMM.com プラットフォーム開発本部 副本部長)AI DevEX Conference 2026 登壇スライド 関連: cyberagent_ai活用レベル定義と数値レポート_整理 / mckinsey_ai_trust_2026_agentic_era_整理 / ai駆動開発ループ_interview-dev-loop_整理


0. 要点(3行)

  • 「測れる数字=正しい生産性」ではない。Four Keys/SPACE で測れるスループットの裏に、技術的負債認知的負債(動くが理解が追いつかない)が溜まる。スピードを先行指標にするとグッドハートの法則で本質品質を壊す。
  • 最大の障害は"言語の相違"。経営層(P/L・B/S)・事業責任者(Cost・工期)・開発組織(スループット・内部品質)で「生産性」の意味が違う。接続点(PdM↔EM↔開発)で意味を翻訳しないと施策が空論化する。
  • 投資構造が「人件費のみ → 人件費+AIコスト」に変質。年収500万+AIコスト500万で1,000万の価値創造を期待する時代。ROI は投資回収率6ヶ月以内を目安に、工数削減を金額換算して経営に説明する。

1. AI×開発生産性の捉え方

測れるもの / 測れないもの

測定可能 測定困難
プロジェクト進捗遅れ / 見積工数との乖離 技術的負債(保守性)
Four Keys / SPACE データ 認知的負債(Cognitive Debt)
AIエージェント投資額
  • 認知的負債: 「速度が理解力を上回るとき、コードは正常だがエンジニアの心に負債が存在する」。AI が速く出すほど"動くが理解が追いつかない"状態が蓄積する。
  • スピードを先行指標化するとグッドハートの法則(指標が目標化すると本質を損なう)に陥る → 品質を先行指標、スピードを遅行指標に置くのが処方。

"言語の相違問題"(階層で生産性の意味が違う)

階層 「生産性」の意味
経営層 P/L(販管費)、B/S(資産・減価償却)への影響
事業責任者 Cost(金額)、工数・工期
開発組織 スループット(人月あたり)、内部品質、エコシステム

→ 施策が机上の空論化しないよう、接続箇所で意味を変換するのが EM/PdM の役割。


2. 予算・戦略の枠組み

投資比率のシフトと会計処理

  • 従来: 人件費が支配的(年収800万=800万の価値)。
  • 現在: 人件費+AIエージェント投資(年収500万+AIコスト500万=1,000万の価値創造を期待)。
  • 会計処理で見え方が反転: AI で作ったソフトを資産化すると「ソフトウェア仮勘定」→5年償却で営業利益は改善に見える。費用化するとコスト増で営業利益は悪化に見える。同じ投資でも処理で結果が逆転する。

生産性ツリー(階層的目標設定)

財務指標(AIコスト・投資回収率)→ 投資工数分布(新規/エンハンス/保守/運用/管理)→ 施策工数・工期 → バリューストリーム → 開発ライフサイクル。

2つの基本戦略

戦略 目的 手段
戦略1 Increment を1.5倍 開発プロセスを AI ネイティブ化し、出口の物的生産性を上げる
戦略2 Capacity を1.5倍 Ops 工数を AI に置き換え、余剰工数を新規開発へ転用
  • 採用計画への反映: 従来予定人数 × 0.7 を来期採用予定に。

3. 投資対効果(ROI)の測り方

金額ベース

  1. 投資回収率 = 投資額 ÷ 効果額、目標6ヶ月以内
  2. 工数削減の金額化(例): 人件費1億円のグループで、運用工数 −50% / 保守開発 −30% / 新規開発 −20%、1人あたり生産量 +50%。工数単価(例「10,000円」単位)で各施策を金額換算。

監視体制(ヘルスチェックレポート)

  • 管理会計/財務会計の数値、人員構成(雇用形態・等級)、採用・育成計画、開発生産性(開発/運用比率・AIコスト)、プロジェクト進捗。
  • ツール: BigQuery → Looker で可視化、GitHub ライフサイクル分析Findy Team+ で工数追跡。

人事評価への組み込み

  • 従来軸(等級・期待値マネジメント・市場価値)に AI投資コスト(トークン数・金額)AI活用スキル水準 を追加。
  • 例: 年収500万の人が AIコスト500万を消費して成果を出したとき、単なる出力でなくスキル評価として昇給対象にするかを判断。

4. 具体の数値・ツール・事例

  • 管掌部門が1年で 5倍に拡大。工数総計 202.17人月(新規28.38% / エンハンス14.98% / 保守12.07% / 運用17.75% / 管理25.06%)。
  • トークンコストは定額制 → 従量課金が世界的トレンド。
  • DMM 内ツール: PF-Spec-Kit(仕様/目的駆動開発)、Modifius / Modifius CI(技術的負債分析・設計提案)、GitHub Actions 連携(自動評価情報生成)、Slack/Google Meet 連携(1on1・評価補助)、Devin(AI 同期方法の模索で言及)。
  • 外部事例: Stripe が 5,000万行 Ruby の移行を従来2ヶ月 → 1日で完了。

5. まとめ — 結論と提言

中核3洞察

  1. 測れる数字=正しい生産性ではない(認知的負債・グッドハート)。
  2. 階層間の言語化が必須(経営↔開発の生産性定義の齟齬を翻訳)。
  3. AI活用は「楽な未来」でなく「大変な未来」。入口(何を作るかのコンテキスト)と出口(品質・セキュリティ)に人の負担が集中 → ドメイン知識と設計・アーキテクト育成が最優先に。

前提条件の順序("余談"で強調)

  1. AI リーダブルなコード基盤化 → 2. 開発生産性の定量化 → 3. AI-Ready なデータ基盤整備。 これが不十分なまま AI 投資を進めると、本質解決でなく打ち手の羅列に終わる。

最終メッセージ

「攻めの AI 活用から、守りの AI 活用までスキルを伸ばす」 — 脆弱性発見・設定見直し・被害防止まで含め、攻撃/防御の両面で AI を使い分ける組織へ。


6. 自分(AI統括推進室ロール準備)への含意

  • 立ち上げ職の説明責任に直結: 「AI 投資の ROI をどう経営に説明するか」に対する具体解(投資回収率6ヶ月・工数の金額換算・会計処理の見え方)が丸ごと使える。
  • 測定の罠を先に潰す: 速度指標だけを KPI にしない(品質=先行、速度=遅行)。認知的負債・技術的負債を評価に含める設計を最初から入れる。
  • 2軸戦略のフレーム(Increment 1.5倍 / Capacity 1.5倍・採用 ×0.7)は、推進室の投資対効果ストーリーの骨格にそのまま流用できる。
  • 前提3条件(AIリーダブル基盤→定量化→AI-Readyデータ基盤)は、推進室が最初に着手すべき順序の主張として引用価値が高い。

参考リンク

  • 登壇スライド: https://speakerdeck.com/i35_267/ai-x-kai-fa-sheng-chan-xing-woqu-rijuan-kuyu-suan-zhan-lue-totou-zi-dui-xiao-guo
  • AI DevEX Conference 2026(2026-07-22)
  • 発表者: 石垣雅人(合同会社DMM.com プラットフォーム開発本部 副本部長)

作成: 2026-07-24 / 最終更新: 2026-07-24