LayerX|AI エージェント基盤("AIに賭ける")— Bedrock × LiteLLM × Durable/Temporal¶
作成日: 2026-08-09 出典 / きっかけ: 星北斗(@kani_b / kanny、LayerX CISO)"Building an AI Agent Platform at LayerX"(AWS Summit Japan 2026, 2026年6月) 関連: layerx_data_enabling_データが語りかけてくる_整理 / 社内mcp共通基盤_認証認可ログ_整理 / エアークローゼット_agentic_graph_rag_と社内mcp基盤_整理 / メルペイ_決済常駐aiエージェント_設計と5層防御_整理 / agent/ai_agent_9社_本番運用アーキテクチャ / agent/agentic_reference_architecture_評価ループ
0. 要点(3行)¶
- 思想は「AIに賭ける」= 中央統制より速度。顧客データに触る「絶対にまずい場所」だけ厳格に締め、社内ソースや開発実験は自由にさせる。締める線をデータ境界に引き、それ以外はアクセルを踏む割り切り。
- 基盤は AWS サーバーレス native の一枚岩(ECS/Fargate/Lambda/Lambda Durable Functions、Aurora/OpenSearch Serverless、S3 Vectors、GraphQL Gateway)。その上に用途別に4つのエージェント実行系(Bedrock AgentCore / Lambda Durable Functions / Temporal / n8n)を使い分ける。
- コストと品質のガードレールが要: LiteLLM を LLM ゲートキーパーにして仮想キー+ユーザー/プロジェクト別予算上限、Langfuse(self-host)でプロンプト管理・評価。エンジニア6名で全社 AI インフラを回し、むしろ非エンジニア(営業/人事/法務)の方が高頻度で使う。
1. 全体像 — 4事業に AI を敷く¶
LayerX のミッション「すべての経済活動を、デジタル化する」。事業は4本柱で、各々に AI エージェントを実装:
| 事業 | 中身 |
|---|---|
| バクラク(Bakuraku) | バックオフィス向け AI エージェント群(経費・請求など) |
| ALTERNA | フィンテック(資産運用) |
| Ai Workforce | エンタープライズ向け AI プラットフォーム(AI-native の中核) |
| AgenticSec | 自律ペネトレーションテスト |
2. アーキテクチャ¶
2-1. 基盤インフラ(AWS サーバーレス native)¶
| レイヤ | 採用 |
|---|---|
| コンピュート | ECS / Fargate / Lambda / Lambda Durable Functions |
| DB | Aurora Serverless / OpenSearch Serverless |
| ベクトル/ストレージ | S3 Vectors(ベクトル)、EFS(ファイル永続化)、S3 |
| API 層 | マイクロサービス+ GraphQL Gateway で統一 API |
※ Lambda Durable Functions は 2025年12月に発表された「長時間・多段ワークフロー / AI ワークフロー向け」の実機能(2026 に各言語 SDK が GA)。チェックポイント&リプレイで長時間処理を耐障害化する。
2-2. LLM 基盤 — Bedrock をファーストチョイス¶
- 「モデルプロバイダとしては(ある場合)ファーストチョイスにしている」= Amazon Bedrock が第一候補。理由:
- AWS IAM ネイティブ統合でユーザー別/プロダクト別のアクセス制御ができる
- コスト優位
- マルチモデル(Claude 主軸+タスク特化で Kimi / Gemma / Cohere 等)
- Bedrock に無い/必要なものは OpenAI Platform も併用。
2-3. LiteLLM — LLM ゲートキーパー(コスト統制の肝)¶
- LiteLLM を統一プロキシにして Bedrock+OpenAI のエンドポイントを束ねる。
- 仮想キー(virtual key)認証、ユーザー/プロジェクト別の予算制約とコスト計算、日次予算フィードバック。
- → 「暴走コスト」を構造的に止める予算ガードレール。
2-4. エージェント実行系を4つ使い分け¶
| フレームワーク | 位置づけ |
|---|---|
| Amazon Bedrock AgentCore | クラウドネイティブなエージェントオーケストレーション |
| AWS Lambda Durable Functions | 長時間ワークフロー(チェックポイント/リプレイ) |
| Temporal Workflow | self-host 可能なコントロールプレーン(TypeScript SDK) |
| n8n | 非エンジニア向けローコード・ワークフロー |
2-5. 内製ツール¶
- Shepherd — 自社製 Electron ベースの MCP クライアント。Slack / Notion / Google Workspace 連携を集約。
- Langfuse — LLM エンジニアリング基盤(プロンプト管理・評価・テスト)。Fargate に self-host、バックエンドは ClickHouse。モデル更新をまたいだプロンプトのバージョン管理に使う。
3. スライド14 — 3軸で AI を効かせる(ユーザー指定)¶
LayerX は AI を3次元で展開している、というのがスライド14の骨子:
- 組織レベル: 開発環境、プロダクトマネジメント支援、業務(営業・サポート)、コーポレート(人事・法務・財務)
- プロダクトレベル:
- バクラク: 複数の AI エージェント(領収書の分割、経費レビュー、勤怠設定など)
- フィンテック: エージェント支援オペレーション
- Ai Workforce: AI-native プラットフォームの中核
- AgenticSec: 自律ペネトレーションテスト
- 支える基盤: 横断的な少人数チーム(例: バクラクの SRE 4名、コーポレートエンジニア2名で 50以上の AWS サービスを管理)
4. セキュリティ・ガバナンス — 「賭ける」の線の引き方¶
- 2025年の方針「Bet AI(AIに賭ける)」= 中央集権的統制より market への速度を優先。
- 絶対にまずい場所(no-go): 顧客データは API 経由のみ・管理された AWS アカウントに限定。
- 許容リスクゾーン: 社内ソースコード、開発者の実験は自由に。
- 予算ガードレール(LiteLLM)でコスト暴走を防ぐ。
- → 「全部を締める」のではなく、顧客データ境界だけ硬く、あとは緩めて速度を取る設計。cf. メルペイ_決済常駐aiエージェント_設計と5層防御_整理(あちらは金融ゆえ5層で硬く締める=対照的)
5. 具体ユースケース(自社事例)¶
| エージェント | 中身 | 実装 |
|---|---|---|
| Alex Mentor | Slack ヘルプデスク bot。Notion・営業資料・製品ドキュメントを Bedrock Knowledge Bases(S3 Vectors) で参照。営業が多用 | n8n |
| Security Checklist Agent | Google Sheets のアップロードを解析、過去パターンから回答生成。精度70〜80%で人手補正は最小 | Lambda Durable Functions |
| 経費レビュー Agent | 社員の申請を会社ポリシーに照らし自動レビュー、手戻りを削減 | — |
| ヘルプデスク Agent | マルチテナントの B2B 向け。自動応答・チケットのルーティング・マニュアル更新 | Temporal(強めのプロンプトチューニング) |
精度70〜80% 等は登壇者の自社事例としての数値。
6. 組織・文化¶
- エンジニア計6名で全社 AI インフラを運用(少人数)。
- 非エンジニア(営業・人事・法務)が、エンジニアより高頻度で Shepherd / n8n を採用。
- コミュニティ活動: 2025年初頭に全社ハッカソン「AI Agent Festival」(社内ツールのコネクタを事前用意)→ 外向けに55日間の「AI Agent Blog Relay」へ発展。
- プロンプトは Langfuse でバージョン管理し、モデル更新をまたいだ改善を追跡。
7. 核心の学び(スライド51)¶
生成 AI によって「つくる」ハードルが大幅に下がった。
- 焦点は「技術の目新しさ」から 組織のプロセス再設計とフィードバックループへ移る。結局は従来のプロダクト開発サイクルと同じ、というのが結論。
- = 基盤(Bedrock/LiteLLM/Langfuse)は手段。勝負どころは「誰が・どの業務に・どう回すか」の組織設計。
8. まとめ — この事例から持ち帰る手(+他社比較)¶
| 状況 | 借りる手 |
|---|---|
| 全社に AI を広げたいが統制で詰まる | 顧客データ境界だけ硬く、社内実験は緩める("賭ける"の線引き) |
| LLM コストが読めない/暴走が怖い | LiteLLM を単一ゲートキーパーにして仮想キー+ユーザー/PJ別予算上限 |
| ワークロードが多様(短命〜長時間) | AgentCore / Lambda Durable Functions / Temporal / n8n を用途別に使い分け |
| 非エンジニアにも作らせたい | n8n(ローコード)+ Shepherd(社内MCPクライアント) |
| プロンプト/評価が属人化 | Langfuse を self-hostしてバージョン管理・評価を回す |
他社比較: 「社内 MCP 共通基盤+非エンジニア内製化」はエアークローゼット(エアークローゼット_agentic_graph_rag_と社内mcp基盤_整理 / エアークローゼット_非エンジニア内製化_sandbox_mcpと議事録rag_整理)と近い。9社横断の型は agent/ai_agent_9社_本番運用アーキテクチャ。LayerX の固有性は ① Bedrock を IAM 統合の軸に据えた AWS 一体設計、② LiteLLM を予算統制のゲートにした点、③ CISO 主導で「データ境界だけ硬く」割り切った速度志向。
一言で: 「全部を統制」ではなく 顧客データだけ硬く締め、あとは Bedrock+LiteLLM+用途別実行系で速度を取る。少人数(6名)で全社に広げる型として、AWS native 一体設計とコストゲートの組み合わせが勘所。
参考リンク¶
- 原典(SpeakerDeck, kanny/星北斗, LayerX, AWS Summit Japan 2026) — https://speakerdeck.com/kanny/building-an-ai-agent-platform-at-layerx
- AWS Lambda durable functions(多段/AI ワークフロー向け・2025-12 発表) — https://aws.amazon.com/about-aws/whats-new/2025/12/lambda-durable-multi-step-applications-ai-workflows/
- Amazon Bedrock AgentCore — https://aws.amazon.com/bedrock/agentcore/
- LiteLLM(LLM プロキシ/ゲートウェイ) — https://www.litellm.ai/ / Langfuse — https://langfuse.com/ / n8n — https://n8n.io/ / Temporal — https://temporal.io/
作成: 2026-08-09 / 最終更新: 2026-08-09